2011年12月19日月曜日

アメリカン・ドリームはどこに?



取り戻せるかアメリカン・ドリーム(American Dream)

志知 均(しち ひとし)
201112

大銀行や金融会社が不当に強力なことに抗議し、この秋の917日に無政府主義者、社会主義者、リベラルなどと自称する連中や、アーチストなどから成る雑多なグループが、ニューヨークの証券取引所に近いザコテイ・パーク(Zuccotti Park)に座り込みをした。『大銀行や金融会社』とは、J.P.Morgan, Citi Group, Goldman Sachs: などの数社で、彼らの総資産はGDP30%に相当する!
ニューヨークのウォール街で、抗議者集会デモ

これがウォール街占拠(Occupy Wall Street)の始まりである。このグループが野営して座り込みを続ける内に、参加者は雪だるま式に増え、更に同様な座り込み抗議がアメリカ各地へ広がった。今では総称して占拠抗議者集会(Occupy Protesters)と呼ばれている。しかし抗議の対象は金融機関だけでなく、大学授業料値上げ反対や、仕事よこせ運動と多様で一貫性に欠ける。

そこでこの運動をもっと焦点をしぼった政治運動にしようとする動きがでてきた。例えば、オバマ政権にも参与した黒人リベラルのヴァン・ジョーンズ(Van Jones)は、これをアメリカン・ドリーム運動(American Dream Movement)と呼んで、リベラル政治運動にまとめようとしている。

アメリカン・ドリーム(American Dream)、、、この言葉は1931年の大恐慌の頃にアメリカの叙情詩(The Epic of America)という著作の中で、ジェームズ・トラスロウ・アダムス(James Truslow Adams)が使った表現が定着したもので、アダムスによればアメリカン・ドリームというのは「階級を問わず、全ての市民が豊かで幸福な生活を享受できること(a better richer and happier life for all our citizens of every rank)を達成するのが目標で、憲法でいう「全市民の幸福(Happiness for all)に通ずる。
絵に描いたようなアメリカン・ドリーム;1960年代


1960年代のハリウッド映画にみられるように、緑の芝生と車2台の車庫つきの家に住み、年に数回家族旅行の休暇がとれる安定した仕事があり、退職後は年金(Social Security)で老後を悠々と暮せる中流階級になるのがアメリカン・ドリームであり、可能であった。その夢が、今回の恐慌(recession)で、社会を根底からゆるがし崩れてきてしまったのだ。30年前に比べ、中流階級は10%縮小している。

その原因について、新聞、雑誌、テレビなどの評論から拾ってみると次のようなことが考えられる。

中流階級にとって最大の資産は持家である。それが不動産バブルがはじけて家の値段が下がり大幅に資産が減った。更に、政府の消費拡大政策にのってクレジットカードを安易に使い過ぎたため銀行への個人負債(debt)が増え、持家を失って中流から転落する家庭が増えたこと。クレジットカードの濫用が始まったのは労賃の低い経済途上国から安い消費物資が大量に輸入されたからで、消費者は自分で自分の首を絞めることになった。

1970年代から世界中で20億の低賃金労働者が増え、それまでアメリカの労働者がやっていたと同じ仕事をするようになったので、アメリカの製造業は壊滅的打撃を受け、生存競争から生き残るためにアメリカ人社員を解雇し、海外の労働者を起用したため、失業者が急速に増加した。

「アメリカン・ドリームはおしまいだ」
中流階級が縮小した反面、安い消費物資を輸入販売して利潤を得た企業や、資金の流通の取り扱いで利益を上げた金融機関のトップの人達は、巨額のボーナスや報酬をむさぼっていた。彼らは、アメリカ総人口のたった1%の人達に過ぎず、国民全体の所得の21%を独占し、國家財産の35%を占有している。こうした富の独占という歪みが反映し、貧困層は加速的に増大している。


このように貧富の格差が大きくなり過ぎると、社会不安が高まり資本主義にとって脅威になる。そのよい例が、経済急成長した中国で、人口の10%にしか過ぎない上流階級の所得が、これまた10%の下層貧困階級の所得の65倍にもなる。中国政府の指導者は、貧富の拡大は社会主義の脅威になると懸念している。

興味あることに、景気回復が捗らず失業率も高い現状への対応は、世代によって大きく違っている。30才以下の『2000年世代(millenium generationと呼ばれ、40%が非白人種)』は、IT 技術革命の時代に育ったから情報伝達が早くなった現在のアメリカは60年代よりよくなっていると思っている。

それに対し66才以上の『沈黙の世代(silent generation)』は、程度の差こそあれアメリカン・ドリームを達成して退職した人達が中心だから、当然、現在のアメリカは悪くなってきていると感じている。この老若世代にはさまれた『X世代(3146才のgeneration)』と4765才の『ベビー・ブーマー世代(baby boomer generation 中流階級の主体)』の現状に対する見方は、職業によって違うようだ。教育程度の高い専門職(医、法、先端工学、金融など)や、反対に大学教育を必要としない職業(商店マネジャー、守衛、料理人など)に従事する者は失業率が低く、現状にあまり不満はない。それに対し、技術やIT機器の扱い方の点で途上国の労働者に遅れをとっている人達は不況の打撃を一番ひどく受け失業率も高いので現状への不満も多い。

いわゆる『アラブの春』と言われ、チュニジア、エジプト、リビアなどで独裁政治への不満から民衆が蜂起した。独裁ではないが少数の富める特権階級が富を独占し、民主的でなくなってくれば、アメリカでも民衆蜂起が発生しないとはいえない。保守派の草の根の人たちが始めた『ティ・パーティ(Tea Party)』運動や、リベラル派の占拠抗議(Occupy Protest)運動はその前兆かも知れない。

それではどうすればよいか?については議論百出であるが、識者が共通して指摘している点がいくつかある。先ず、雇用を促進すること。現在アメリカのビジネスは政府の財政方針がビジネスに有利になれば、雇用や設備投資に回せる備蓄が2兆ドルもあるといわれる。

日本についで二番目に高い法人税率(corporate tax rate)を下げ、さらに企業活動の足かせになっている規制を減らし、企業投資を奨励すれば、雇用が増えることは間違いない。個人所得税率も貧富の差を少なくするように改正しなければならない。杜撰(ずさん)な管理で急増している国民健康医療費(Medicare/Medicaid cost)や外国派兵で増大した軍事費を縮小し、膨大な政府の財政赤字を減らすことが急務である。政府の財政緊縮と同時に、国民が無駄な消費を控え貯蓄を増やすことも肝要である。現在は過去40年の過剰消費を反省する時期といえる。

「お金さえあれば、、、」
手軽に達成できるアメリカン・ドリーム。
幸いアメリカは他の先進国に比べ若い世代が国民全体にしめる率は高いので、働く世代が、退職した世代を支えて成立つ社会保障年金制度に財源の心配は現在ない。また天然ガスや石油資源が豊富だからエネルギー源の外国依存を減らすこともできる。

最近は、アメリカのピークの時代は過ぎてしまったという悲観論も聞かれるが、私はそうは思わない。現在の試練の時期がすぎれば、再び繁栄の時期がやってくると信じる。言いかえれば、アメリカン・ドリームは必ず取り戻せる。

2012年秋の総選挙ではそれを実現してくれる大統領と議員を国民が選ぶことを願っている。
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写真、マンガは、 National Legal and Policy Center;myaimzistrue.blogspot.com; Ob Rag (Ocean Beach California) by Greenburg から

1 件のコメント:

JA Circle さんのコメント...

一般大衆が消費することによって、企業が利潤を上げ、それで景気が回復する、という理論には、一方的な見方しか感じられません。企業の経営者達の目には、質素な暮らしや節約が悪徳だ、と思えるのでしょうか。