2010年2月2日火曜日

終わりを告げたヌーベル・バーグ(新しい波)

追悼:仏映画製作者エリック・ロゥマァ;89才
ディヴ・カー(Dave Kehr)
2010年1月11日付け、NYTの記事から:

報告はナディム・アウディ(Nadim Audi)パリから提供

フランスの映画批評家そして製作者で、ヌーベル・バーグ(Nouvelle Vague [New Wave]新しい波)派に同調し、これまでに50本以上の映画を製作したエリック・ロゥマァ(Eric Rohmer 89才)の死が伝えられた。作品の中にはモウドと過ごした夜(My Night at Maud's:右の写真)』はアカデミー賞候補にもなった。(上のロォマァは、金獅子賞を授与された時の写真)

ロゥマァの美的感覚は、フランスの新しい波』派の中では最も保守的だった。
新しい波』派は、1950年代の後半から1960年代にかけて若い過激な批評家たちが起した運動で、世界中の映画製作者たちに強い影響を与えた。彼らの理念を簡単に言うと、美男美女が主役でハッピーエンドで幕を閉じるいわゆる典型的なハリウッド映画に反発し、ある意味では自転車どろぼうのようなイタリアのリアリズムに共鳴した映画製作を推進したのである。

本来が小説家で、フランス文学やドイツ文学を教えていたロゥマァは、小説の題材から視覚的に訴える手法で一つの映画創りのジャンルを創り出した。アルフレッド・ヒッチコック(Alfred Hitchcock)や、ハワード・ホウクス(Howard Hawks)などのシナリオにも貢献している。(左は『クレアの膝:1970』から)

フランスの大統領ニコラス・サァコージ(Nicolas Sarkozy)ロゥマァの死を悼み「古典的でロマチック、賢明なる偶像破壊者、軽妙にして真剣、感傷的だが道徳的、そうしたロォマァの作品は、彼の死後も語り続けるであろう」と弔辞を発表した。


撮影現場では、背の高いロォマァは、その鋭い青い眼を据えて静かに腰を下ろし、スタッフを緊張させ、無駄口をはさむ余地を与えなかった。

一方私生活でのロォマァは、ゆったりと気楽に暮らしていたようだ。実は『エリック・ロォマァ』はペンネームで、1920年3月21日にフランス南西部のチュール市(Tulle)で誕生した時はモーリス・アンリ・ジョセフ・シアー(Maurice Henri Joseph Schérer)という名を授かった。他説によると、フランス北東部のナンシー市(Nancy)で生まれ、ジャン・マリィ・モーリス・シアー(Jean-Marie Maurice Schérer)だった、とも言われる。

最初の小説エリザベス(Elisabeth)』は、ギルバート・コルディア(Gilbert Cordier)というペンネームで発表した。1950年にパリに移り、ラテン・クォーター(the Latin Quarter)の映画同好会(the ciné-clubs)に屢々出入りし、ジャン・ラク・ゴダード(Jean-Luc Godard)、フランソワ・トラフォ(François Truffaut )、クロード・シャブロ(Claude Chabrol)、ジャック・リヴェット(Jacques Rivette)等と知り合い、次第に映画の世界に足を踏み入れるようになった。(左は『クローの昼下がり:1972』から)

ロォマァリヴェットラ・レヴュウ・
デュ・シネマ(La Revue du Cinéma)』という映画雑誌を発行した。5冊目を発刊した所で行き詰まり、若いトラフォが発行していたレ・カイエ・デュ・シネマ(Les Cahiers du Cinéma)の批評スタッフに参加した。その雑誌は、既成の大映画会社の製作された映画を痛烈に酷評するという編集方針で流行を先駆けていた。

1952年に創った初期の作品は、経済的な理由もあって陽の目を見ずに葬られた。映画創りは暫く棚上げにし、1963年まで批評の仕事に戻っていた。(右は『冬物語り:1992』から)

ロォマァの映画開眼の切っ掛けは、1962年に26分の短編パン屋の娘(The Bakery Girl of Monceau)』だった。これは[6つの道徳物語り]シリーズの第一作で彼自身が台本を書いた。映画を作りたいと秘かに描いていた彼の夢が開花したのである。


彼の作風は、抑制された倫理的な美的感覚を基調に、18世紀の哲学者の思想が底辺に流れ、作品の中でしばしば彼らの言葉を引用した。同時にロォマァの作品にはロマンが漂い、時には性愛への憧れを滲ませている。しかし、彼の優雅な品性と格調の高いムードから逸脱しないよう慎んでいたようだ。(左は『秋物語り:1998』から)

ロォマァの弟、哲学者のルネ・シアー(René Schérer)は健在、遺族は奥さんと二人の息子だが、故人の遺志で家族の詳細は公表を控えている。

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エリック・ロォマァの主な作品

獅子座:The Sign of Leo (1959)
La Boulangere de Monceau (1963)
La Carriere de Suzanne (1963)
ナジャのパリ:Nadja A Paris (1964)
収集狂:The Collector (1967) 仏題名: La Collectionneuse[上のDVD、左から]
モゥドとの一夜:My Night at Maud's (1969) 仏題名: Ma nuit chez Maud[上のDVD、左から2番目]
クレアの膝:Claire's Knee (1970) 仏題名: Le Genou de Claire
クローの昼下がり:Chloe in the Afternoon (1972) 仏題名: L' Amour, l'apres-midi[上のDVD、左から3番目]
The Marquise of O..(1976) 仏題名: La Marquise d'O...[上のDVD、左から4番目]
Perceval (1979) 仏題名: Perceval le gallois[上のDVD、右端]
飛行士の妻:The Aviator's Wife (1981) 仏題名: La Femme de l'aviateur[上のDVD、左から]
善い結婚:A Good Marriage (1982) 仏の題名: Le Beau Mariage[上のDVD、左から2番目]
浜辺のポウリーン:Pauline at the Beach (1983) 仏題名: Pauline a la Plage[左から3番目]
満月のパリ:Full Moon in Paris (1984) 仏題名: Les Nuits de la pleine lune[左から4番目]
緑の日差し:The Green Ray/Summer (1986) 仏題名: Le Rayon Vert
女友達の男友達:My Girlfriend's Boy Friend (1987) 仏題名: L' Ami de mon amie[上のDVD、左から]
レイネットとミラベルの四つの冒険:Four Adventures of Reinette and Mirabelle (1987) 仏題名: Quatre aventures de Reinette et Mirabelle
冬物語り:A Tale of Winter (1992) 仏題名: Ein Wintermarchen
木、市長、仲介人:The Tree, the Mayor and the Mediatheque (1993) 仏題名: Le Arbe, le maire et la mediatheque
パリでの出逢い:Rendezvous in Paris (1995) 仏題名: Les Rendez-vous de Paris
夏物語り:A Summer's Tale (1996) 仏題名: Conte d'ete
秋物語り:Autumn Tale (1998) 題名: Conte d'automne[上のDVD、左]
春物語り:The Tale of Spring (1998)[上のDVD、左から4番目]
貴婦人と公爵:The Lady and the Duke (2001)[上のDVD、左から2番目]
三重スパイ:Triple Agent (2004)[上のDVD、左から3番目]
アストリアとセラドンの恋:The Romance of Astrea and Celadon (2007) 仏題名: Les Amours D'Astree Et De Celadon
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お知らせ★色の題名は、DVDでネットフリックス(Netflix)からレンタル,又はアマゾンから購入できます。英語の題名で検索すると見付かります。日本語の題名では登録されていません。

1 件のコメント:

JA Circle さんのコメント...

1950年代の終わりから1960年代にかけて、ハリウッドが華やかにして下らない作品に巨額な製作費をかけていたのを思い出します。今たまに観ると、その無意味さにうんざりさせられます。
『新しい波』が人々の、特に若い人々の心を捉えたのは無理からぬ成り行きでした。