2009年11月12日木曜日

ミュージック・セラピーで老化を防ぐ

服部公一先生に聞く
聞き手:読売新聞記者、桜井 学
11月9日付、文化『こころのページ』欄から

はじめに:
記者が子供時代に楽しんでうたっていた『アイスクリームの歌』。その作曲者の服部公一(はっとり こういち)さんは、作品同様、愉快なエピソードを披露してくれた。話の背景には、必ず現場でのリアルな体験がある。音楽を始めた山形時代、米国の地方都市、幼稚園での指導など、そこで考え、得た知識が音楽や著書に反映されているのだろう。だからこそ、その内容は親しみやすく、かつ現実の重みがあり、幅広い年代に愛されてきたのではないか。

[服部公一先生のお話]
♬ 最近、高齢者の合唱団が盛んに活動していますね。先日早稲田大学のOB合唱団の演奏会を聴いたのですが、平均年令が75才ぐらいなんです。90代の人もいて、杖をついて歌っている方もいたんです。それがすごく上手なんですよ。


♬ コーラスは健康上いい。まず肉体労働だから腹が減る。楽譜を見て、周りに合わせて歌うからそれは知的作業になる。両方が必要だから老化防止になる。それに音楽には人の情緒を安定させる力がある。このあたり、昔ミュージック・セラピー(Music Therapy: 音楽療法)の知識が役立っています。

♬ 1960年代初め、米国のミシガン州立大学(The Michigan State University)に行ったんです。当時はNHKのオーディションに合格して、放送用の童謡などを作曲していました。私は音楽学校に行っていませんから、箔(はく)をつけようと。外国帰りっていうのは売りになるんじゃないかと思ってね。そこでミュージック・セラピーを学んだんです。当時は新しい分野だったから、学生の人気がなかったんでしょうか、大学側に勧められたんです。

♬ 日本では知られていませんでしたから、勉強しながら半信半疑でした。実習で病院に行って、たとえば心を病んでいる人にピアノを弾かせて精神のバランスを保てるように誘導する。音楽を使ったコミュニケーションで心をほぐしていく。

♬ 大学で学んだ後は。同じ州フリント市(Flint)ゼネラル・モーターズ(General Motors)の工場街があり、そこで仕事をしました。自動車産業が好景気の時代で、労働力として人がどんどん流入してくる。その子供たちやお母さんたちのためのプロジェクトでした。背景の異なる人たちが集まっているので、問題もあり、勉強になりました。[編集註:今は昔、、、1960年代、ミシガン州フリント市の繁栄時代、GMの肝煎りで音楽療法の理論に基ずく広範囲の情操教育プロジェクトが始まった。主務者はフリント市教育委員会の音楽指導主事ベティ・キーム博士(Betty Kiem, PhD.)で、当時30代後半のブルネット美人。黒人が主な対象で、先ず楽器を購入し、同時に器楽教育の専門教師を30人採用した。その中の一人が作曲家として採用された服部先生だった。プロジェクトの成果は目覚ましく、その成功を身をもって体験した先生は後年「音楽レッスンとは修行僧の如く辛さをっこらえ、営々と励まねばならぬもの、、、という観念に満ちた日本に育った私は、このフリントの成功を見て、本当に眼からウロコの落ちる思いがした」と感嘆している。(イラストは高橋経)

♬ 
楽器にさわったこともない子供たちに演奏のイロハを教え、お母さん方相手にやったのがコーラス。参加者は最初一つの音に合わせて歌うが、うまくできない。みんなバラバラ。まずは全員で「ド」を発声することから始める。できるようになってくると、声の高い人たちと低い人たちに分けてハーモニーを作る。音楽は、人種や教養の差を超える。いろいろ違いがある人たちでも、音楽でうまく気持ちがつながるようになるんです。結局そこに数年いました。

♬ 帰国後、長い時間がたって、東京家政大学大学院ミュージック・セラピーを教えることになったんです。それに付属幼稚園の園長を6年間もやらせてもらいました。大学に来る前は、ずっとセラビーのことは忘れていたんですけどね。いつのまにか、それが日本に浸透していた。園長時代は子供たちやお母さんたちと直接ふれあって、米国時代を思い出しましたよ。

♬ 最近は、なんと自分自身にもミュージック・セラピーを課しているんです。毎日小一時間ピアノを弾く、中学生の時に使っていた楽譜がまだあってね。これがうまく弾けないの。その後、30分ほど大声で発声練習をするんです。

♬ 期せずして学んだミュージック・セラピーなんですが、自分の生涯を通して、ずっとついてまわっというか、不思議な縁を感じますね。

1 件のコメント:

JA Circle さんのコメント...

音楽は絵画に比べて遥かに普遍的ですね。僕も一つ頑張って『アート・セラピー』(美術療法)でも開発してみようかな。