2009年2月7日土曜日

ハッピー バースデー、ダーウイン

志知 均(しち ひとし)避寒中のフロリダから
2009年2月

コペルニクスが太陽系の中心から『地球』を放逐したように『人間』を生物界の王座から引きずり下したのがダーウインです。2009年2月12日はその偉大な生物学者ダーウインの生誕200年に当たります。(左は、2ポンド記念貨幣)

チャールス・ダーウイン(Charles Darwin)は英国のシュリューズバリィ (Shrewsbury) の裕福な家庭に生まれました。学校が嫌いで成績は良くありませんでした。父親のすすめで医学校へ入りましたが人体解剖が嫌いで成績も悪く退学します。再び父親のすすめでケンブリッジ大学(Cambridge University)の神学校へ入学し辛うじて卒業しましたが、牧師になる気はなく悶々と無為な日々を送っていました。

そんな状態にあった彼に、ある日大学の恩師のスティーブン・ヘンスロゥ(Stevens Henslow)教授から調査船HMS ビーグル(Beagle)号に自然観察者(Naturalist)として乗船し未知の世界を見てこないかとすすめられ『イエス』と即答します。ところが父親はそんな航海に加わるのは将来牧師になるのに役に立たないと反対します。そこでダーウインは敬愛する伯父Uncle Joe(Josiah Wedgewood) 
に相談し、自分は牧師にはなりたくないので父親の反対理由は不当であることを書面で説明し説得に成功します。

こうして始まった1851年から5年にわたる航海はダーウインに「初めて(私の)心が真に訓練され教育された(”the first real training or education of my mind”)」と言わせた程の経験で、彼は本当にやりたいことを見つけたのでした。もしビーグル号(上右の絵の左の船;上左はガラパゴス島のイグアナ)に乗っていなければダーウインは能力を十分発揮できない変人で一生終わっていたかも知れないといわれています。この逸話は、ほんとうに自分が何をやりたいかを見つけるまでは模索の努力を続け、チャンスを逃さないことの重要さを教えてくれます。

1836年10月に英国へ帰るまでに集めた1,529種のアルコール漬けサンプル、 3,907種の乾燥サンプルや日記、ノートを調べダーウインが数年かかってまとめたのが種の起源 (Origin of Species)』ですが、15万5千語の要約(Abstract)』が出版されたのは20年後の1859年でした。彼の説によりますと、生物は環境に適合(Adaptation)するために機能、形態を変えていきます。環境は多様ですから形態も多様になりそれが固定され次世代にひきつがれれば多様な種ができます。一方、地表や気象の変化で環境は常に変化するのでそれに適応するために生物は生存競争(Struggle for Survival)を強いられ適者(Fittest)のみが生存し繁殖できます。こうした自然淘汰(Natural Selection)によって種はより複雑になり進化します。(左のカリカチュアは、1870年代のダーウイン)

この説は広い支持を得ましたが同時に「環境に適合して新しくできた機能、形態を種はどうやって子孫に伝えるのか説明されていない」との批判もありました。しかし遺伝については接木や家畜交配の経験以上に何も判っていなかった当時としてはこの批判に正しく答えるのは不可能でした。


20世紀になって遺伝学が確立され、更に遺伝子の担い手であるDNAの二重螺旋(らせん)構造(右の図)が発見され、種の違いはDNAの違いであり、遺伝形質はDNAによって子孫に伝えられ、またDNAの変異(Mutation)によって種の多様性や進化が起きることがわかりました。進化の考え方は今や経済活動、人口調節などの社会問題の解析にも適用されてきていますが、特にその効用が顕著なのは遺伝子が関係する分野です。自然淘汰による進化は概して速度が遅く利用するのが困難です。その解決法として進化の速度を遺伝子操作で早めるのが人工淘汰(Artificial Selection)です。それによって、人間、動物、農作物につく病原菌やビールスの遺伝子を変えて(進化させて?)無害なものにしたり、病気をおこす遺伝子の発現を抑えたり、更には頭脳その他の臓器を遺伝子操作で改良したりする研究が進んでいます。

アルダス・ハックスレィ(Aldus Huxley)が76年前に予言した『大胆な新世界』(”Brave New World”)はもはや作り話ではありません。こうした効用がある一方、遺伝子操作で人間や農作物が耐性をもたない病原菌やビールスが開発され、戦争やテロに使われる危険もあります。更に気になるのは遺伝子操作で人間の知能の向上や身体的能力 (たとえばオリンピックの記録更新をする能力) の改良によって人間が人為的な『進化』を続けていった場合、人間がどう変わっていくかです。(左はダーウイン、1880年)

お互いに殺しあって自滅するかもしれないし、地球に住めなくなる前に私達の遠い先の子孫が十分進化してどこかの天体へ移住し50億年後に起きる太陽の消滅をながめているかもしれません。ダーウインによって解明の第一歩を与えられた進化という現象がこれからどういう展開をみせるのか、つきない興味があります。

1 件のコメント:

JA Circle さんのコメント...

お互いに殺し合って自滅するのも、他の惑星に移住(できたとしても)するのも困りますね。これだけ科学が進歩したら、人口増加をコントロールする方法が見付かってもよいと思いますが、いかがでしょう?